この時計には、珪化木、オニキス、アベンチュリン、メテオライトなど、さまざまな素材の文字盤を使ったバージョンがある。しかし、オーストラリアン・オパールの文字盤(ホワイトゴールドまたはレッドゴールド)を使用した2つのモデルが、個人的には今に伝わるスピリットを忠実に再現していると思う。
「オパール色」という言葉は、宝石の光沢あるシルクのような色調を表すために作られた。宝石は、その光沢、透明度、そして多くの場合、その硬度で評価される。オパールは、モース硬度6程度とダイヤモンドよりも柔らかい宝石だが、都市伝説的に言われているほどダメージを受けやすくデリケートな宝石ではない(例えば、オパールは水に濡れても大丈夫だ)。貴重な素材の中で、虹色の輝きがオパールに匹敵するのはマザーオブパールだけであり、本当の意味でこれと並ぶものはないように思う。
この時計の操作は簡単だ。Cal.JD2653 AT1はシリコン製のヒゲゼンマイとレバー脱進機を採用した自動巻きムーブメントで、非常に古風な複雑機構を支える、技術的には非常に現代的なムーブメントだ。リューズを一方向に回すと、時を刻むゼンマイを動かす香箱が巻き上げられる。リューズを反対方向に回すと、オートマトンを動かす小さなゼンマイが巻き上げられる。これは、チャイム機構付きの腕時計に見られる基本的な仕組みに共通する。オートマタやリピーター、ソヌリなどの複雑機構のために独立したゼンマイを搭載することの利点は、複雑機構が計時歯車列の動力の流れから外れていることである。
リューズを巻いてオートマトン用の香箱にパワーを入れれば準備OK。リューズの中央にあるボタンを押すと馬車の車輪が回り始め、蝶が悠々と羽ばたきだす。
この時計を見ていると、19世紀の偉大な舞台魔術師たちの手の込んだイリュージョンを思い出す。特に、マジシャンであるロベール=ウーダンの「不思議なオレンジの木」では、観客のハンカチを卵のなかに入れると、それがレモンやオレンジになり、最後に観客の目の前でオレンジの木になった果実のひとつから再び現れるというものだ(ハンカチは2匹の機械仕掛けの蝶によって現れる)。
このマジックの裏には、非常に複雑なメカニズムがある。プロであれば、その仕組みに興味をもつのは当然のことだろう。マジシャン達は、1845年にロベール=ウーダンが初演した「不思議なオレンジの木」を研究している。しかし、それ以外の者にとっては、マジックは未知のものではないにしても、信じること、つまりマジシャンの芸術性―この場合は時計職人の芸術性―を信じることにあるようだ。
- 作品名
- このマジックの裏には、非常に複雑なメカニズムがある。
- 登録日時
- 2021/06/29(火) 18:55
- 分類
- 未分類